東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1307号 判決 1963年9月12日
控訴人 菊地末吉
被控訴人 国
主文
本件控訴を棄却する。
控訴審での訴訟費用は、控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取り消す。東京都品川区小山四丁目七六番の八宅地一六坪七合(以下本件土地という)につき被控訴人国が所有権を有することを確認する。被控訴人国は、右土地につき控訴人のため所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二枚目記録第七丁-裏七行目に「本件」とあるのは「本案」の誤記と認められるから、右のとおり訂正する。)。
理由
控訴人は、本件土地につき被控訴人国が所有権を有することの確認を求めているので、本訴のうち右確認を求める部分の訴の適否について、まず判断する。
確認の訴は、訴訟物である権利又は法律関係の存否を判決をもつて確定することによつて、原告の法律上の地位に対する危険又は不安定が、法律上即時に除去される場合に限り許されるものである。本件においては、控訴人は本件土地を被控訴人国から払下を受ける権利があり、被控訴人国の訴外浅尾安吉に対してなした本件土地の払下は無効であるから、本件土地の所有権は被控訴人国に属することを主張して、その確認を求めるものであることは、控訴人の主張事実自体により明らかであるから、仮りに控訴人が本訴につき勝訴の判決を得ても、これにより本件土地の所有権が控訴人に属することに確定されるものでないのはもちろんであり、控訴人が被控訴人国から本件土地の払下を受ける権利を有することは、被控訴人の争つているところであるが、控訴人のかような法律上の地位の不安定は、本件確認判決によつて法律上即時に除去されるものではないから、結局控訴人の本件確認の訴は、確認訴訟における法律上の利益を欠くものといわなければならない。そして、かゝる確認の利益は、訴訟要件と解するのを相当とするから本件確認の訴は不適法として却下を免れない。
つぎに、控訴人は、訴外浅尾安吉は本件土地を賃借していたので、予算決算及び会計令第九九条第二二号にもとづき特別の縁故がある者として被控訴人国から本件土地の払下を受ける権利を有していたところ、控訴人は同人から右権利を譲り受け現に右地上に居住しているから本件土地の払下を受ける権利を有するとして、被控訴人国に対し、本件土地の所有権移転登記手続を求めている。しかし、右予算決算及び会計令第九九条第二二号は、各省各庁において土地等を特別の縁故がある者に売払又は貸付をなす場合には随意契約によることができることを規定したにとゞまり、右縁故者が当然に払下等を受ける権利を有することを定めたものではないから、浅尾が本件土地を賃借していたものであつて、控訴人が浅尾からその権利を譲り受ける契約をなし且つ現に本件土地に居住しているとしても、控訴人は本件土地の所有権はもちろん被控訴人国からその払下を受ける権利を取得したものということはできない。
したがつて、控訴人が本件土地の所有権又はその払下を受ける権利を有することを前提として、被控訴人国に対してその所有権移転登記手続を求める被控訴人の右請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由のないことが明らかであるから、失当として棄却すべきものである。
原判決は、控訴人の本訴のうち右所有権移転登記手続を求める請求については、当裁判所の判断と同趣旨であり、また前記所有権確認の訴については、原判決主文に「原告(控訴人)の請求を棄却する。」旨記載されているが、その理由は、右請求が確認の利益を欠くという点にあることは判文上明らかであるから、原判決主文の右記載は、所有権確認を求める控訴人の本件訴を却下する趣旨であると解するのを相当とする。
よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項を適用してこれを棄却し、控訴審での訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤顕信 杉山孝 山本一郎)